研究内容について

幹細胞・ヒト疾患モデル解析分野のご紹介

幹細胞・ヒト疾患モデル研究分野は、2013年9月からスタートした研究室です。

当研究室では、ES (Embryonic Stem)/iPS(induced Pluripotent Stem)細胞などの多能性幹細胞の未分化性がどのような分子基盤に支えられているのか、多能性状態へのリプログラミングの分子機構を明らかにすることを目的として研究を行っています。
また、当研究室では最終的にはヒト血管新生の分子基盤の解明・治療法へ貢献できるような研究成果を目指して研究しています。そして、ヒト子宮内膜症モデルカニクイザルを作出し、病態解明を目指した研究も行っています。

本研究室では、大学院生を募集しています。
平成28年度10月入学の大学院博士課学生の募集中です。出願は8月1日(月)〜5日(金)です。

進行中プロジェクト一覧

多能性幹細胞の未分化性維持・リプログラミング機構

klf5

内部細胞塊(Inner Cell Mass、ICM)由来の胚性幹細胞(ESC)は、全ての臓器に分化し得る多能性と、旺盛な増殖性のために生物学、再生医学分野で精力的に研究がなされている。
我々は、Klf5(Krüppel like factor 5)ノックアウトマウス、Klf5ノックアウトESCを樹立、研究する過程で、Klf5が内部細胞塊細胞のES化(=幹細胞化)に必須の遺伝子である事を見出した(左図参照、Ema et al., Cell Stem Cell, 2008)。具体的には、Klf5は胚盤胞ステージの内部細胞塊細胞で高発現しており、内部細胞塊細胞のみを取り出して培養してもESCを樹立できない事が明らかとなった。
このようなことから、Klf5は内部細胞塊細胞からの“幹細胞化過程”に関わっている事が示唆される。また、Klf5と同じファミリーに属するKlf4によって、体細胞が多能性幹細胞(iPS : inducedpluripotent)に誘導される事(Takahashi and Yamanaka, 2006; Takahashi et al., 2007)、Klf5やその他のいくつかのKlfファミリー遺伝子群もiPS化能を有している事(Nakagawa et al., 2008)を考えると、Klf5の幹細胞化機能とKlf4によるiPS細胞化の間には類似のメカニズムが存在する事が推測される。しかしながら、Klf5による内部細胞塊の幹細胞化の分子メカニズムは、その下流遺伝子群が不明であることから全く分かっていない。

klf5-es

また我々は、Klf5がESCの自己複製過程(未分化性維持・増殖)にも極めて重要である事も見出している。ESCに於いて2つのKlf5アリルを破壊することにより、Klf5ノックアウトESCを樹立した所、Klf5ノックアウトESCでは、顕著に増殖能が低下するとともに、分化マーカーが高発現し、突発分化する傾向がある事から、分化相側に遷移している事を見出した。
一方Klf5過剰発現ESCでは顕著に増殖能が亢進するとともに、LIF除去を行っても分化しないことが分かってきている。元来マウスのESCは増殖能が極めて高いにもかかわらず、Klf5過剰発現によって未分化性を保ちつつ増殖能をさらに亢進させられる事は驚異的である。このようなKlf5の特質を、増えにくい幹細胞、例えばヒトES・iPS細胞を未分化性を維持したまま増やす手法の開発に繋げられるのではないかと期待している。
また、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現の解析から、Klf5ノックアウトESCの遺伝子発現様式は、原始外胚葉由来幹細胞(胚盤葉上層由来幹細胞、Epiblast stem cell (EpiSC)とも呼ばれる)と類似していることが判明した。EpiSCは、マウスESCと異なり、ヒトESCが持ついくつかの主要な特質(緩やかな増殖、FGF依存性、その他遺伝子発現)を有しており、マウスESCとヒトESCの差を説明できるかもしれないと考えられている。

血管新生の分子機構

arhgef15

現在、高齢化の進む日本での死因の第1位から3位は癌、心臓疾患、脳虚血性疾患である。これらの疾患の治療法に共通して求められるのは、如何にして血管新生を適切に促進または抑制するかという点である。 このように個体において血管の新生と抑制のバランスを分子レベルで理解することは、学問上価値あるばかりでなく、医療の上でも大変価値が高いと考えられる(依馬正次、吉原雅大、血管医学2013参照)。こうした血管特有の機能は、血管内皮細胞にある程度の特異性を持って発現する遺伝子により制御されていると考えられている。

我々はこれまでに、発生過程中のマウス血管内皮細胞において高発現する遺伝子を網羅的に探索したところ、180の遺伝子を同定することに成功した。興味深いことに、成体の腫瘍血管内皮細胞に高発現するが部分肝切除後の生理的血管新生時には発現しない腫瘍血管内皮マーカー遺伝子(Tumor endothelial marker)が、発生中の血管内皮細胞に高発現することが判明し、発生過程の盛んな血管新生と腫瘍血管新生の間に分子レベルでの類似性が認められた(Takase et al., Blood, 2012)。
これらの遺伝子の生理機能を見るために、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を用いたVEGF依存性管腔形成能アッセイを行ったところ、複数遺伝子が血管内皮細胞の管腔形成能に寄与することを明らかにすることが出来た。しかし、個体レベルでの機能は不明であったため、新規Rho関連遺伝子であるRhoJおよびArhgef15遺伝子のノックアウトマウスを樹立し、生理機能解析を行った。ノックアウスは生存可能であったが、生後5日目の網膜血管新生について評価したところ、野生型と比較して血管新生に遅れが認められた。Tip細胞の数には有意差は認められなかったが、基底膜と細胞体を染色する実験から、動脈の一部で退縮が認められたため、RhoJやArhgef15が血管構造の安定化に寄与していることが示された。

我々は、血管内皮細胞のトランスクリプトーム解析から見出された、血管内皮細胞に特異性を持って発現する遺伝子群の中でも、他の研究者があまり着目していない遺伝子を中心として解析し、ヒト血管新生の分子機構を解明し、創薬に繋がるような成果を得ていきたいと考えている。

血管内皮細胞可視化マウスモデル

flt1-tdsRed

血管新生のメカニズムは未だ不明なところが多く残されている。その原因として、血管新生を可視化する適切なモデルマウスが少ないことと、血管内皮細胞で発現している遺伝子についての個体レベルでの機能についての理解が不十分であることが挙げられる。
そこで、血管新生を可視化するための遺伝子改変マウスを作製し、ヒト三大疾患を研究する研究者のためのモデルマウスリソースとして整備することを考えている。

当研究室ではFlk1-GFPノックインマウス(Ema et al., Blood, 2006)を作製し、国内外の血管研究者へ分与してきたが、生理的・病的血管新生の研究に極めて有効であることが示されている(Eremina et al., JASN, 2006, Kojima et al., Stem Cells, 2010, Kubota et al., JEM, 2011)。 このマウスはFlk1アリルの1つが破壊されていることが潜在的な問題点となっていたため、Flk1-GFP BACトランスジェニックマウス(Ishitobi et al., Exp. Animals, 2010)を作製した。このマウスは、GFPのシグナルが強く血管内皮細胞を強く可視化出来る事から、多数の研究者からリクエストが来た(2010年日本実験動物学会優秀論文賞を受賞)。

その後、VEGF受容体の1つであるFlt1 (VEGF-R1)を可視化するFlt1-tdsRed BACトランスジェニックマウス(Matsumoto et al., Genesis, 2012)を作製したところ、驚くべきことにFlk1とは異なる一群の血管内皮細胞を標識することが分かった(Matsumoto et al., Genesis, 2012)。このFlk1-GFP :: Flt1-tdsRed BAC Tgマウスは、単に血管内皮細胞を可視化するばかりでなく、血管内皮細胞の亜集団を可視化出来るという特徴がある。

ウイルスベクターを用いたアルツハイマー病のカニクイザルモデルの作製

カニクイザルにもアルツハイマー病関連病変が形成されますが、20歳以上の高齢でないと発症しません。そこでアデノ随伴ウイルスにアルツハイマー病関連遺伝子を組換えて、早期に病変を見いだすためのモデル作製を試みています。

カニクイザルを用いた子宮内膜症の免疫学的研究

子宮内膜症は霊長類だけに発症する疾患で、正確な病理発生は自然発症を起こす動物種だけで明確にできます。
内膜組織が遠隔地へ播種、移植される際には様々な免疫学的なファクターが働いており、そのメカニズムをカニクイザルで明らかにしていっております。